- 夜の業界は、一般企業では考えられないトラブルの大雨が降る
- ホストクラブにおける「爆弾行為」とは何か?
- 三十路ホスト 二度の爆弾行為で罰金100万円
- 爆弾ホストについて
- 一度目の爆弾行為
- 二度目の爆弾行為
夜の業界は、一般企業では考えられないトラブルの大雨が降る
『弁護士ドットコム - 無料法律相談や弁護士、法律事務所の検索』などで、「ホスト 罰金」などと調べると、物騒な相談がいくらでも読める。
「暴力を振るわれて歯が折れた」「借金が残った状態で店を飛んでも犯罪になりませんか?」
僕もホストとして働いていた頃に、内勤スタッフが右フックをかまされて、こめかみ辺りの皮膚がざっくり切れたり、客の女と一緒に逃げたホストが連れ戻され、顔が腫れ上がるほど暴行を受けたりするような場面を見せられた。
とはいっても、勤務先が小箱(面積が狭い)の店で、雇われ店長が好き勝手やっていたから、凄惨な事件が多かっただけかもしれない。
時代的に優良店が増えていて、怖い人もいなければ、酒を飲めなくてもなんとかなるところが増えてはいるのだが、「やる気があれば何もかも問わず採用」といった側面の強い業界のため、当たりもあれば、外れもあるものだ。
荒々しくブラックな営業をやり尽くしたら、雲隠れし、機が熟したら店名を変えて再始動するなんて店も数多い。
このような暴力・恐喝はごく一部の店での出来事だが、「爆弾行為」を働いて罰金を取られるくらいのことは、大体の店では珍しいことではない。
今回はそこに焦点を当て、事実ベースで書いて行こうと思う。
ホストクラブにおける「爆弾行為」とは何か?
一口に「爆弾行為」といっても、クラブごとに取り決めがある訳なのだが、雑にまとめて説明するならば、ルール違反ということである。
僕がプレイヤーだった頃は、下記のような事柄が爆弾行為に抵触すると説明された。
・客の個人情報を聞いてはならない(生年月日・恋人の有無・家族構成・職業など)
・先輩に反抗してはならない(内勤スタッフの命令にも必ず従う)
・たとえ自分の客前でも、横になって仕事を放棄してはならない
・客のツケは担当ホストが責任を持つべきであり、客が払えないなら代わりに支払わなくてはならない
・他従業員を指名する客を、どんな理由があるにせよ奪ってはならない(いわゆる指名替えはタブー)
これらを破ると、問答無業で罰金を科せられることが多い。
曖昧な計算方法で、「お前は店に損害を与えた。その分の補填額は75万円。一括で支払うか、分割するか? あるいは、今後も反省しつつ働いて給料から差し引く形にするか。好きに選べ。店を辞める場合は、この界隈では働けなくなることくらい、言わないでも分かるな?」と威圧的に書面を渡され、サインを求められる。
ある程度規模の大きな店になってくると、一般企業のごとく法を遵守し始めるから、一回目は厳重注意、二回目でクビといった人道的措置を取ってくれることも多いが、小規模なお店だと、未だに不当な額の罰金を要求されることが度々ある。
前置きが非常に長くなったが、今回は実際に100万円の罰金を支払うことになった知り合いの体験談を書いておく。
知り合いというか、週三くらいで遊んでいた友達なので、罰金を払う当日、お店の近くまでついて行った。
それゆえ、爆弾行為に手を染めてしまった過程、発覚した瞬間のことなど、根掘り葉掘り聞くことが出来た。
この件に関しては、既に削除したブログで記事を出したことがあるから、そちらを少々加筆修正して、使い回すことにする。
三十路ホスト 二度の爆弾行為で罰金100万円
やらかした爆弾行為は、単純な横取りである。
それのみか、せっかく一回目の爆弾行為を許して貰えたのに、三日後に二度目の不正を働くというクレイジーさを見せつけ、店のスタッフ全員を唖然とさせた。
三角関係になると、この先も貢いで貰えるはずだったホストの利益が損なわれてしまうため、「好きになったから許してくれ」は通用しない。
営業妨害に違いないということで、損害賠償と慰謝料の請求をされることになった。
2度も爆弾行為を犯すのは、比較的珍しいケースであるから、広範囲に噂が飛び交った可能性が高い。
したがって都道府県など細かな情報は、薄ぼかして話を進めることにしよう。
爆弾ホストについて
オニタロウ(仮名)。年齢30歳。彼女いない歴=年齢。童貞。田舎系ブサイク。食べ方が汚い。空気が読めない。
彼とは、とある派遣バイトの研修会で知り合った。
第一印象は干からびて砕ける直前のハニワであり、くっちゃくちゃと不快な音を立てて、不味そうなのり弁当を食していたから、あまり近寄りたくないと思った。
しかしオニタロウは馴れ馴れしく、「ピピさんはホストクラブの体験入店に行ったことあるのです? さっき小耳に挟んだのです。俺も連れて行って欲しいのです」と懇願して来た。
秒で断ろうと思ったのだが、「代わりに焼き肉を奢るのです」といわれ、当時金欠だった僕は買収されてしまった。
翌日には、渋谷の109-2に案内して、トルネードマートやバッファローボブスなど、ホストご用達の店で必需品を買わせた。
ホストスーツを着用したオニタロウは、不穏なオーラを漂わせ、にたにたと笑っていた。
一度目の爆弾行為
十回ほど体験入店をした後、オニタロウはある店に本入店することになった。
僕はなぜ一緒に働かなかったといえば、厄介事に巻き込まれる確率が高いと思ったからだ。
その予感は、二ヶ月ほどで的中することになった。
オニタロウは、先輩ホストの席にヘルプとして付いた際に、さも当然かのように客からアドレスを聞き出したのだ。
先輩がトイレに行っている隙に、こそこそと。
まるで、解けた靴紐を結ぶかのように禁忌を犯している。
そして数日後には、爆弾行為が発覚。
先輩ホストと客はずぶずぶの関係だったため、全ては筒抜けであった。
すぐさま店の代表にスマホを没収され、目の前で、写真フォルダ、メールボックス、電話帳をチェックされる。
それが終わると、「一度ぐらいの過ちでクドクド言わねぇ。今回は見逃してやる。客のアドレスは削除しておいたからな。もう二度と間違うなよ? お前はこれからの人間だ。気合い入れてやったれ!」と、笑顔で背中を叩いてくれたとのことだ。
二度目の爆弾行為
代表に許しとエールを貰ってから、三日後の出来事だった。
オニタロウは、キャッチ中に魔が差した。
例の客が歩いているのを発見し、欲望を抑えられなくなった。
「ちょっと祖父からの大事な電話が……落ち着く場所で掛けてきて良いですか……すぐ戻りますので……」
ごまかしの言葉を投げたオニタロウに、「すぐ戻って来いよ」と一つ返事で承諾をした先輩ホストたち。
普段から青白い顔をしているのもあって、一大事だと信じて貰えたのだろう。
オニタロウは無我夢中で駆け走り、客を追い掛けた。
フンに群がるハエの如きナチュラルさで、「アドレス……教えて……」とスマホを突き出す。
好きな子を前にしてウッキウキだが、オニタロウの現実はそう生易しくはなかった。
「何をしているか分かっているかな?」
殺気だった内勤の登場である。
ナタを持たせたら躊躇なく振りかざしてくるような形相と、穏やかな話し方。
「わたし……あ、あの、ち、ち、ちが……違います! あ、あの、道聞いてて……」
客の女は動揺しながらも、「わたしが話し掛けただけです!」と伝えてくれたみたいだが、内勤は一部始終をひそかに観察していたため、聞き入れることはなかった。
「客ちゃん、ごめんね。今から優しいお話をしなくちゃいけないから」
問答無用で店に引き戻され、閉店時間まで立たされる。
全ての客が帰った後、
「座れや!」
怒声を上げる代表の前で、オニタロウは土下座した。
それから自宅の鍵をぶんどられ、またもスマートフォンのデータを見られてしまう。
オニタロウがこよなく愛する、洋物のあれ系な画像も一枚残らず、確認された。
代表はシャツを腕まくりし、入れ墨を露わにしながら、聞き取れない勢いで罵声を飛ばした。
「おい、どうする? 辞めるか……それとも?」
「今すぐ辞めます」
オニタロウは咄嗟に答える。
「そうか。だったら他の従業員が全員帰るまで待ってもらうしかねえな。何が起きるか分かっているな? なぁ?」
その言葉に、致死量を超えた毒が入っていることを感じ、腰を抜かしたオニタロウは、自ら提案する。
「ば、罰金払います! 払わせて頂きます」
幾度も床に、頭を擦りつけて許しを請う。
こうして誓約書を書かされる羽目になった。
『罰金100万円。今後○○界隈に立ち寄ることを禁ずる』
自分だけでは到底払えないため、母親に泣きついたとのことだ。
罰金を手渡しに行ったときの、代表の冷ややかな目が一生忘れられないらしい。
という話を、嬉しそうにオニタロウは僕に聞かせてくれた。
まったく反省していないから、きっとまたどこかの街で、第三次爆弾行為をおっぱじめることだろう。
また新たな爆発の音が、今にも聞こえてきそうだ。