おっさんは、少額の金でも喜ぶブスな地下アイドルが好き
「おれが応援(貢ぐ)すると、彼女はきっと喜ぶ。なんせ売れないブスだ」
つまり『与えている感覚』が、より強烈な存在を選びたいのである。
汚い部屋をピカピカにするのと、すでに星が瞬くほど美しい部屋を掃除するのでは、達成感に雲泥の差がある。
ゆえに、チヤホヤされていない『ブスで売れない地下アイドル』のオタクになるのだ。
その上、地下のブスは実際にワーキングプア(働く貧困層)であることも多く、アイドル活動(ギャラ・交通費なし)と相まって貧乏暇なしであるから、心身ともに疲労困憊していたりする。
そんな悲惨な状況のさなかであれば、しがないおっさんの貢ぎ(チェキ撮影・グッズ購入)に対して、嘘偽りではない有り難みを覚える。
結果、温もりのある笑顔、心からの感謝を提供することになり、おっさんのハートを鷲づかみすることになる。
すなわち、信者の獲得完了。
ブスな地下アイドルの太客は、息が長い
狂信者フェーズに突入したおっさんは、「この子は俺が絶対に応援しなくちゃならない!」という自己説得をスタートする。
もはやアイドルの働きに関係なく、おのずと見込み客から太客へと急速進化を遂げるのだ。
最終形態となったおっさんは、貯金を超越した貢ぎを実行するようになるため、他の趣味にお金を回せなくなってしまう。
人生における希望が、推しメンのブスなアイドルのみに限定化・固定化されるという訳である。
そうなれば生活圏も狭まり、妄想と美化を楽しむことが生活の中心となる。
いわゆる自己洗脳を施すような暮らしぶりであり、つまるところ日々、ブスなアイドルを神聖視する度合いがエスカレートしてゆく。
皮肉なことにも、貢げば貢ぐほど彼女の心に余裕が生まれる(我に返る)ため、駆け出しの頃に見せた誠の笑顔は消失する。
気色悪い言動に耐え凌ぐという、ごく一般的なモードになるのだ。
おそらくおっさん側も、薄くではあるけれど突き放されていることに勘づくのだろうが、『逃げられると追いたくなる心理』によって、余計に愛を深めてしまう。
ブスなアイドルの太客は、とてつもなく寿命が長いのだ。
地下アイドルが販売しているのは、自己犠牲を楽しめる空間
「禁止されているものを侵犯する」場合の恍惚感にもいくつか種類がある。大きく分ければ、
(一)自分が墜ちて行くことに対して、自虐的に恍惚を感じるパターン
(二)霊的に上昇していると感じる恍惚のパターン
ということになるだろうか。
引用した文章のとおり、僕たち人間は『自己破滅』にすら快感を得てしまう生物なのである。
ドキュメンタリー番組・『中年純情物語~地下アイドルに恋をして~』に出演していたおっさん(50代)が、「自分では何も出来ないけど、応援する事によって彼女達がちょっとでも上に行ったりすれば良いかなみたいな」という発言をしていた。
このセリフが元で、「下心あるだけだろ」「痛く共感する」「おっさん自身の存在確認のためだろ」という議論がネット上で巻き起こった。
どれが正解かを断定するのは不可能だが、あくまで僕個人の意見として、おっさんの発言には一切飾りがないと感じた。
というよりか、おっさん自身が矛盾の含まれた混沌たる感情に弄ばれており、自分がなぜ地下アイドルに恋しているのかを、正確に理解していないように見える。
あるいは、真実から目を背けている。
おっさんの行いを、得手勝手にタイトル付けしてしまうならば、『自己犠牲・自己陶酔の快楽』となるだろう。
貢ぐという行為は究極のワガママであり、資産を切るリスカである
何を隠そうこの僕も、女子に免疫がない時代は、貢ぎ行為を連発していた。
自分が傷を負ってでも、好きな子を支えようとするのは、極端な話、恋が成就するよりも気持ちが良いからである。
「ダメ人間の僕が、ダメだからこそ有益な物質を提供するよ。それで君が幸せになってくれるのなら、僕は何もいらない」という自傷的な多幸感に包まれていた。
途中から、貢ぐことそのものが目的化してしまったくらいである。
過去を美化する訳でなしに、「あわよくば」といった感覚が消え失せていた。
地下アイドルに心を奪われたおっさんと、遜色ない精神状態であったと考えられる。
自己犠牲・自己陶酔は、それら単品で快感を獲得可能な、心的マジカルアクションなのである。
そうした魔法に掛けられてしまうメカニズムが存在するからこそ、キャバクラ、メイド喫茶、地下アイドルというエンターテイメントが成立しているのだ。
女子のために行う自己犠牲ほど、快楽を生じさせる自己満足は他にない。
貢ぐという行為は、究極のワガママであり、手首代わりに資産を切るリスカでもある。
そのため、地下アイドルが販売しているのは、歌や踊りや、そのブスなツラではない。
自己犠牲に浸れる空間を提供しているのである。
自己愛を膨らませるためのキッカケを提供しているのである。
おっさんを気持ち悪くしてあげること、それが地下アイドルの業務なのだ。